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保存版『元禄』演奏法(その3)

  いよいよクライマックスの第3部に入ります。イメージとしては、「祭り」と云うわけですが、単にお祭りの風景とか雰囲気の描写で終わってはいけません。神田祭にしても、浅草の三社祭にしても、青森のねぶたにしても、京都の祇園祭にしても、それぞれのスタイルを持っていますが、その祭りの根源には、自然・生活・人々の繋がりといったことへの、願いとか祈りといったことが存在します。その意味でこの部分は、祭りの風景以上の、自然への憧憬・町衆の力の結集といった、魂の叫びのようなものを表現したいものです。
 
【〔N〕〜】
 この第3部では、打楽器のアンサンブルが曲を支えます。大・中・小、音色も変化のある4種類の太鼓が準備出来ると良いですが。Bongo、締め太鼓、Snare Drum(snare off)、深胴の締め太鼓、Tom-tom、Conga、桶胴、Bass Drum(木のバチ使用)、和太鼓、Floor Tom など、小から大までこんな所でしょうか。これらを同時に、一斉に演奏するのではありません(そのようなことをすると、一遍に単調になってしまいます)。これらを上手く絡ませ合って打楽器アンサンブルを創り上げるのです。
 まずは、小・中で出ます。3小節目からのクレシェンドは、molto cresc. で全打楽器を呼び込んで、5小節目からの大フォルテに入ります。4小節目の4拍目で、「ヤッ!! 」のかけ声を。
 
【〔O〕〜】
 急激な fp で Brass セクションが入ります。木管群は、ff の強烈なトリルで迎えます。打楽器群は、〔O〕の1拍目ですぐに小打楽器を mf で残し、 他は p にします。Tam-tam は、本来の Tam-tam のバチを使用します。
 6小節目より、中・大打楽器は cresc.、8小節目で全体を ff 、12小節目で全体を mp に。
〔P〕の2小節前、大打楽器は1小節ずつ molto cresc. を2度繰り返す。このように、打楽器群を他の楽器群とは関係なく、アンサンブルして動かすのです。以降、全体を ff にしたり p にしたり、ある1種類だけ cresc. させたり、ある打楽器を休符にしたり、色々とバッキングさせます。要は、他の楽器群との劇的な絡みを創り出すと云うことです。なお、Timpani の打ち込みは、気合い充分に、劇的な空間を創ります。
 
【〔P〕〜】
 7・9 小節目の付点音符は長く伸ばさないで、鋭いアクセントで jazz っぽく。
 
【〔Q〕〜】
 打楽器群だけが p ですから、思い切った p にします。
 
【〔R〕〜】
 豊かな中低音の和音の上に、鋭い高音が乗るという華やかさです。1小節ずつ鮮明に表現しますが、各小節が切り離されてしまわないようにします。次の2拍3連まで、和声的な流れをしっかり作ります。打楽器群にチャッパ(又は当り鉦)が加わります。
〔P〕8小節目と10小節目の cresc. に対しては、打楽器群は p で待機しておいて、9・11小節目のアタマで、ff を打ち込みます。
 
【〔S〕〜】
〔T〕 へ向かって、5小節目から、Timpani の打ち込みは ff のままにしておき、他の tutti は、poco cresc. で進みます。
 
【〔T〕〜】
 さあいよいよ画面には、エンディング・クレジット(エンディング・ロール)が流れ、ドラマの余韻に浸る場面が来ます。Bass ラインは幾分スウィング感を持って、Clarinet のリズム・パターンは8分音符が短くならないようにしよう。
 旋律は、Alto Sax. がリードする、良き時代を懐かしむ、感傷的な雰囲気を表現します。6・8 小節といった大きいフレーズをとります。Score のアーティキュレーション・スラーとフレージングを混同しないようにして下さい。
 打楽器群は、音色をそれまでとガラッと変えて、中心になる「タンタタ・タンタタ」は響きの弱い、Snare Drum(snare off)で。1・4拍目ウラに打ち込みを持つ Bass Drum は、大き目のバチで軽く打ち込みます。間違っても、勢いよく強烈に打ち込んではいけません。Tam-tam はこの〔T〕から、木の長いバチ(1m 位の長バチ)を使用します。
 
【〔U〕〜】
 エンディング・クレジットに祭りのシーンが重なってきます。打楽器群は、祭りの編成・音色(〔R〕〜)に戻します。Bongo(締め太鼓)の2拍3連の打ち込みは、極めて効果的です。
 
【〔W〕〜】
 エンディングは力強く、速度を落とさないように、8分音符はしっかりマルカートで、短くスタッカートになってしまわないようにしよう。最後の sff へ向かって、最後7小節間は cresc. で広がりのある空間を創り上げて行きます。1小節ずつ細切れにならないように、各セクション・パート内でブレスの場所を案配しながら、大きなフレーズになるようにします。
 最後の sff は、 pesante で4分音符に余韻を持たせ豊かな響きを作ります。直前で一瞬「間(マ)」を取ります。この「ハッ!!」という感覚は、邦楽を色々聴いて、身に付けて下さい。これが上手く出来ないと、sff の後に、この和音をフェルマータで響かせて終る、といった終わりになってしまいます(これも悪くは無いですが……)。

 さて、全体通して如何でしょうか。作曲者として、演奏法を書きましたが、本来、演奏は演奏者が考える事で、「こうせい、ああせい」と作曲者が云うもんではありません。もしあるのなら、楽譜にチャンと書いておくべきです。解釈のしようが色々あるのなら、それこそが演奏者の権利で、思い切って発言すれば良いのです。音楽の発信者は、確かに作曲者ですし、その意味では作曲者は偉いのですが、さて、音楽として創り上げるのは、演奏者と聴衆の皆さんです。私は、皆さん方と音楽を創り上げて行くのが楽しくて、作曲しています。

 次回は、今年のコンクール課題曲に対して感じたことを書きます。なお、例年発信している「課題曲の中の課題」は、今年は「課題曲の中の課題と実践」という題で、Winds Scoreのホームページに掲載予定です。
 
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保存版『元禄』演奏法(その2)

【〔J〕〜】
 第2部・中間部に入ります。急・緩・急の構成の楽曲(吹奏楽の楽曲には、大変多く見られます)では、この中間部の感情表現が、そのバンドの感性のレヴェルを演出するこになると云えます。いわば勝負どころなのです。
〔J〕のアタマ2小節のフレーズですが、花びらが舞落ちる・風がそよと吹いてくる、そんな自然の動きの中に、優しい感性を入れてきます。アゴーギクとしては、アッチェレランドして、最後の2分音符でリタルランド、を繰り返します。
 4小節目の後半からの上方向へのフレーズは、リタルダンドして次のフレーズで in Tempo となります。Trumpet のフレーズ(今日の幸せ・人とのふれ合い・恋心などを思い出して……)は、3・4・3・4 と拍子が揺れます。ハイ、1・2・3 , ハイ1・2・3・4 なんて、拍を数えてはいけません。音符の長さ(これも数学的な長さではなく)を読み易いように、譜面に表したものです。フレーズごとに抑揚をつくりながら、流れるように進めて行きます。
 この中間部は全て、そんな感覚で表現して行きます。指揮者は、形にはまった図形を描くような指揮にならないように。
〔J〕から〔K〕〔L〕〔M〕 と通して、打楽器(鍵盤打楽器もふくめ)は色彩感を与える極めて重要な音です。Vibraphone は勿論のこと、Sus.Cymbal そして Claves の一音も絶対落ちてはいけません。用いる楽器そのものの音色と共に、センスのある演奏表現が要求されます。他のパートの奏者でも良いですから、音楽性の高い奏者を配置すべきです。
 
【〔K〕〜】
 心の中の色々な想い、人との心の繋がり、人への優しさ、といったことを情感を込めて演奏します。恵まれていないが、人とのふれ合いの中、そこにはいくらかの幸せがあるのです。空の星へ向かって話かけます。見上げてごらん 夜の星を といったところです。
〔K〕アタマの Horn は重要です。フレーズを二つに分けないように、大きなフレーズで採ります。広がって行く、という感覚です。もしどうしてもというときは、ブレスの位置を各奏者でずらし(カンニング・ブレス)、全体で繋がっているようにします。Euphonium は前に出てはいけません。

【〔L〕〜】
Bass ラインは引きずらないようにします(〔M〕〜も含め)。遅い Tempo ですが、リズム感は残します。付点4分音符・4分音符・2分音符全て、短く演奏します。3・4小節目の Alto Sax. からTenor Sax.(Euphonium)へは鮮明にカウンターします。フレーズ終わりの A-G-D には少しのクレシェンドを与えて。

【〔M〕〜】
〔M〕の2小節目のディミヌエンドはすばやく、3小節目で mp になっているように。3小節目から2小節ごとに、全体の音量を落として行き、中間部を終わります。とくに、終わりに向かって、バッキングの長い音符は、音程は完璧に、ブレスが続かない奏者(その奏者のグレードですから、仕方ありません)は、そこで演奏を終了し、下手に息継ぎをし直したりしないようにしましょう。

 さあ、いよいよクライマックスに向かって、第3部に入ります。それでは次回、クライマックスの構成の仕方を解説します。楽しみにしていて下さい。

保存版『元禄』演奏法(その1)

 いよいよコンクールの自由曲選びの季節が来たようですね。この時期、私の作品へのご質問が、仰山きます。作曲者のイメージとか、演奏のポイントなどです。演奏することは、自分達の表現を創造することですから、自分達の演奏を創り上げればよいのですが、やはり、何かヒントと云うか、創造のキッカケが必要かも知れません。そこで、思い切って書くことにしました。一番演奏回数の多い『元禄』について書きます。一つの参考にして下さい。

【冒頭〜】
 まずは冒頭の1小節目。この幕開けで聴衆の心をグッとつかまなければなりません。最低音の C音は、力強くしっかり音を保ちます。フェルマータのかかった他の音は、鋭い音色でクレシェンドします。充分にフェルマータがかかった段階で、Timpani と Bass Drum を打ち込みます。ただ単に、強く打ち込むのでなく、重々しく響かせて下さい。この打ち込みと同時に、全ての音を消します。そして、無の空間を作ります。この空間の中から、雲が湧き上がるような、次のフレーズに移ります。次々にはいるパートは、先行して入るパートの音をよく聞き、フレーズをしっかり繋げて、最高音までアッチェレランドしながら、音を広げて行きます。先行するパートは、次のパートが入ったあと、クレシェンドに入るというタイミングです。 4小節目の rit. は充分に効かせて、一度音を切って(空間を作って)fp のF音に入ります。

【Alto Saxophone Solo〜】
 さて、いよいよ次のポイント、Alto Sax. の Solo に入ります。まず、Clarinets、Horns のバッキングが先行します。その入りを聞いてから Solo を始めます。Solo のフレーズは、拍を感じさせず、長いフレーズとして、自由に自身の台詞として、語りかけます。装飾音のかかった 5音は揺れを感じさせます。また、細かくスラーのかかったフレーズの最後の音は丁寧に残します。Solo のウラには、Marimba + Vibraphone のフレーズを入れたり(※)、Wind Chime を効果的にかぶせます。続く Tutti は冒頭の幕開けと同じですが、冒頭ほど鋭さは押さえて、むしろ響きとして広がるように持ってきます。
 続く Cadenza は、箏かハープが一番良く、次に Piano、次に Harp と Marimba のユニゾン、次に Marimba だけ、といった演奏効果になります。この Cadenza は、初版の東芝版には入っていません(※)

【〔A〕〜】
 カメラ位置が空から江戸の町へ、すうっと降りて来ます。1小節づつのレガートを、優雅に落ち着きを持って表現します。Trumpet は Solo でなく、何本かで柔らかい音色になるようコントロールします、バッキングは、1小節ごとに思いを込めて、その思いは Clarinet、Saxophone、Euphonium がまとまっていることが重要です。〔B〕の直前の Vibraphone は、早くならないように、箏のように上品にアルページョします。

【〔B〕〜】
 Vibraphone の音が消えて、一瞬「間」をおいて、〔B〕へ入ります。ここは、元禄時代の江戸の町。賑あう人の波。武士・町人とも泰平の世に華やかな文化を飾り、時代を謳歌します。振り袖をかざし、きらびやかなファッションで、行き交う人の波を描きます。
〔B〕から〔J〕まで(ここが第1部です)、ラテン・リズムに乗って(Conga を使用して、Bass ラインは鮮明に)、和旋律が繰り広げられます。和旋律は、伝統の5音音階プラス1音の6音音階で出来ています。D-Es-G-A-B-Cです。4小節間、リズムを歯切れよく、Trumpet のテーマが入ると同時に mp にします。
 入れ替わって Trumpet が柔らかくクレシェンドしながら入って来ます。泰平の世ですから、きらびやかさはありますが、戦闘的にならないようにしましょう。バッキングは、単調にならないように、フレーズの切れ目にクレシェンドをいれます。

【〔C〕〜】
〔C〕は、4小節づつ、娘さん〜おじさん、そして〔D〕は 派手に着飾ったお侍(裕福な旗本達かな)といったイメージです。フレーズの継ぎ目に入るHarpは、Vibaphone で入れるとかなり効果的です(※)

【〔E〕〜】
〔E〕からは、第1部の後半、大勢の人が行き交う様子です。木管セクションの燥ぐ女の子たち・低音の大人たちとの対比を創り出すようにします。低音の2小節ごとのパターンは、最後のスラーのかかった8分音符に軽くクレシェンドを与えます。

【〔F〕〜】
 Horns の大道芸人が主人公です。Harp のバッキング(※)が効果的です。〔G〕〔H〕とどんどん賑やかさが増して行きます。

【〔I〕〜】
〔I〕の冒頭の Timpani と Tam-tam の一打ちで、陽が沈み始め、ようよう江戸の町は夕暮れが訪れます。

 それでは、この辺りで。次回は、〔J〕以降(第2部)の演奏法を。
 
(※:詳細は E-mail:mail.png までお問い合わせ下さい。)

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